第6回 南極便り

南極便り第6回は梅津さんのお仕事の様子についてのお話です。
第57次観測隊で4回目の参加となり、観測から機器の保守まで様々なお仕事をされています。
今回はみなさんの夢を実現するためのアドバイスもいただきました。

梅津さんの南極でのお仕事

無人磁力計(観測点H68)の写真

 

 前回は「厳冬期の寒さとブリザード」について紹介をしました。今回のお話はちょっと難しいですが、私の南極での仕事について紹介します。

 

 私の仕事は宙空(ちゅうくう)部門で主にオーロラに関連した観測(宙空圏変動のモニタリング観測)と電離層定常観測の保守・点検業務を行っています。観測は昭和基地のある東オングル島を中心に行なっていますが、モニタリング観測のうち、微弱な電波の観測については、電子機器や家電などからでる人工雑音(音として聞こえないノイズ)の少ない隣の島(西オングル島)でも観測を行っています。また定期的に西オングル島に行って基盤設備の保守・点検の作業をしています。西オングル島の観測地点は、昭和基地(東オングル島)から西へ約4km離れていますので、電源は主に太陽光発電システムによって充電したバッテリーから電源をとって観測を行っています。しかし5月から7月までの太陽が昇らない季節(極夜)は発電ができないので、最近では風力を使った発電システム(ハイブリッド発電)を導入して発電をしています。これらの太陽光発電、風力発電の保守・点検も行っています。

 

 その他の仕事としては、昭和基地から南に数十キロ離れた南極大陸の沿岸部にあるスカーレン、インホブデ、そして南極大陸の内陸(観測点H68)に設置されている無人磁力計の保守・点検を年に1回以上行っています。

 

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無人磁力計(スカーレン)の写真

スカーレン

 

無人磁力計(インホブデ)の写真

インホブデ

 

無人磁力計(観測地点H68)の写真

H68(南極大陸・内陸部)

 

 

昭和基地内と西オングル島にある観測機器

 昭和基地内と西オングル島にある観測機器について紹介します。

昭和基地でオーロラを観測している機器

 オーロラの観測機器の点検を行っている様子

 

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オーロラの観測機器の写真オーロラの観測機器を保守している写真1オーロラの観測機器を保守している写真2

 

 

 

 

 

オーロラの観測の種類

CDC (Color Digital Camera)

 魚眼レンズを搭載した一眼レフカメラで昭和基地上空のオーロラをインターバル撮影しています。

 

CDC (Color Digital Camera)の写真

CDC (Color Digital Camera)

 

 

EAI (Electron Aurora Imager)/ PAI (Proton Aurora Imager)

 太陽から降り注ぐ電子やプロトン(陽子)によって発光する2つの異なるオーロラの光の波長(酸素原子と窒素分子)の同時観測を行い、全天のオーロラ活動の空間分布やエネルギー特性の時間変動を見ています。

 

ATV (All-sky TV camera)

 昭和基地と真反対にあるアイスランドとは磁力線で繋がっていますが、こういった地点を共役点といいます。この磁力線で繋がっている共役点ではオーロラが同時に発生するときがあります。この同時に発生するオーロラを観測するのがATV設置の目的です(これを共役点観測といいます)。オーロラの共役点観測期間は年2回、春分と秋分の前後約2週間。北極のアイスランドと昭和基地の間でも同時観測を行っています。

 

オーロラ発生のしくみの画像

オーロラ発生のしくみ

 

西オングルテレメトリー小屋周辺の無人観測

 銀河系の中心の天体から発せられる電波は、常にある一定の強さで地球に降り注いでいますが、この電波のことを銀河雑音といいます。この銀河雑音を観測することにより、オーロラが発光するとき電離層に降り込む高エネルギー電子束の吸収量を推測することができます。西オングル島では、銀河雑音の強さの2次元空間分布(平面)と時間変化を見ています。その他には自然電磁波観測、また地磁気脈動と総称されている現象の観測も行っています。これらの観測で得られたデータは無線LANにより昭和基地へ送られ、データファイル化され、専用サーバーに蓄積された後に、1日1回国内へ伝送されます。さらに西オングル島の観測状況と風力発電/太陽光発電については毎日無線LANで監視しています。

 

西オングルテレメトリー小屋の写真1

西オングル島のテレメトリー観測(1)

 

西オングルテレメトリー小屋の写真2

西オングル島のテレメトリー観測(2)

 

風力/太陽光ハイブリッド発電システムの写真1

風力/太陽光ハイブリッド発電システム(1)

 

風力/太陽光ハイブリッド発電システムの写真2

風力/太陽光ハイブリッド発電システム(2)

 

観測小屋内で保守作業している様子の写真

観測小屋内で保守作業している様子

 

西オングル リオメータの写真

西オングル リオメータ

SuperDARN短波レーダー観測(大型短波レーダー)

 電波による代表的な観測は、テレビの受信アンテナを大きくしたようなアンテナ(周波数帯域の広い対数アンテナ)を使ったSuperDARN短波レーダー観測(大型短波レーダー)です。SuperDARN (Super Dual Auroral Radar Network)は、国際短波レーダー観測ネットワークによる国際共同研究プロジェクトで、1995年に日本を含めた海外の研究機関と協力しあって共同観測が開始されました。国立極地研究所は1995年当初から、情報通信研究機構(NICT:1997年~)、名古屋大学(2006年~)とともに観測に参加しています。この観測は、宇宙天気の研究、太陽や惑星間空間、磁気圏現象の地球大気に与える影響や磁気嵐、磁気圏電離圏結合等の研究にとって不可欠なデータを提供し続け、超高層大気物理学、電離圏・磁気圏物理学、太陽地球系物理学研究などの最先端の科学をけん引する役割を担ってきました。

 

 南極域での大型短波レーダー観測は、日本の昭和基地と中国の中山基地で行っています。

 

 昭和基地の短波レーダーは、第1装置(SyowaSouth)と第2装置(SyowaEast)があり、南極大陸の下記のエリアをカバーしています。昭和基地のSuperDARN SENSUレーダーと、ドームふじ基地、中山基地、南極点基地、昭和基地の光学観測ネットワークによる同時観測を行うことにより、電離圏・磁気圏の複雑な結びつきの解明を目指しています。

 

SuperDARN昭和SENSUレーダー視野と、その視野下の広域光学観測網視野の画像

SuperDARN昭和SENSUレーダー視野と、
その視野下の広域光学観測網視野

 

 この観測を継続するために、定期点検を実施し、必要に応じて下記の写真のように大きな鉄塔を倒してアンテナの修理や点検を行っています。

 

大型短波レーダーのアンテナ保守作業の様子(2016年7月作業実施)

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大型短波レーダーのアンテナ保守作業の写真1大型短波レーダーのアンテナ保守作業の写真2大型短波レーダーのアンテナ保守作業の写真3

写真撮影時期:2016年7月
作業者:梅津正道

その他の観測

 オーロラ以外の観測について紹介します。

 

 気球を用いた大気の観測では、高度30km付近までしか観測できず、継続して観測することが難しいので、以下のような観測機器を使って高度15~100kmの大気(酸素や窒素の原子や分子のかすかな光やレーザーの散乱光)を観測しています。この高さの領域は、地球の温暖化の影響が現れやすく、オゾンホールといった現象が起きる所です。車や家電、電子機器等による人為的な影響が最も少ない南極で、弱い電波や弱い光を観測することによって、それらのメカニズムや原因が解明されることが期待されています。

 

人が長時間滞在できない高度領域の画像

 

 

 

 

 

 

人が長時間滞在できない高度領域

 

大気の基本的な物理量(温度、密度、風速等)の時間変化を観測するのが難しいところである。

 

そこで下記にある観測手法で観測を行っています。

昭和基地での中層・超高層大気観測の画像

昭和基地での中層・超高層大気観測

 

OH(大気光)観測

 高度90km(中間圏界面)に多く存在するOH分子(酸素分子と水素分子)の発光の観測。

 オーロラが出たとき、高度100km以上は加熱されていることが分かっていますが、「果たして90kmでも加熱は起こっているのか」を検証するために観測を行っています。

 

ライダー観測 (Lidar:Light Detection and Ranging)

 観測対象(高度15~120km:対流圏・成層圏・中間圏)にレーザーパルスを照射し、その散乱光を測定。受光の強度から大気密度と大気の温度を測定しています。散乱体によって、レイリーライダー(大気分子:窒素、酸素)、ミーライダー(雲粒やエアロゾル:空気中の液体、固体の微粒子)、共鳴散乱ライダー(原子・分子、イオン)、ラマンライダー(分子)などと呼ばれています。

 

 観測は2月下旬から11月上旬までの夜間に行っています。

 

レイリー/ラマンライダーの観測領域の画像

レイリー/ラマンライダーの観測領域

 

レイリーライダーの観測作業の写真

レイリーライダーの観測作業

 

ミリ波観測

 ミリ波分光計による分子分光観測(波長がミリメートル)

 

 ミリ波分光観測装置を用いた250GHz帯域の電波観測で、太陽活動の影響を受けやすい高度50~80kmの領域を含む、高度15~70kmの成層圏から中間圏をターゲットにした観測です。太陽表面で爆発的なフレアやコロナ質量放出等に伴ってプロトン現象が発生すると、高エネルギー粒子が中間圏・成層圏に降り込んで光化学反応を起こしNOx、HOxが増加、オゾンが減少(オゾン層破壊)します。このオゾン層破壊に対する太陽活動の影響(NO分子)、また人間の生活から出てくる塩素(Cl)などの影響について、ミリ波観測では一酸化塩素(ClO)を観測することにより調べることができます。また、昼でも夜でも連続観測することが可能です。

 

ミリ波観測機器と日常点検の様子の写真

ミリ波観測機器と日常点検の様子

 

MFレーダー観測

 2~4MHzの中波帯(AM放送波と同様の電波)の電波が、電離圏D層(60~100km)で一部分反射されることを利用して、地上に設置した複数の受信アンテナの信号差から昭和基地上空60~100kmの高度領域の水平風速を連続観測する装置です。昭和基地の南西部側に位置する直径約200mのエリアに設置された4基のクロスダイポールアンテナを使用します。40次隊で設置して以来の連続観測を行っています。

 

MFレーダーアンテナと観測小屋の写真

MFレーダーアンテナと観測小屋

 

MFレーダーの観測機器の写真

MFレーダーの観測機器

 

 

電離層観測

 私は、以下の電離層垂直観測機器やGPSシンチレーション観測の保守・点検も行っています。

 

 電離圏は、地上から約60km以上の高さにあり、とても薄い大気(酸素や窒素)が太陽から放射される紫外線(太陽極端紫外線:EUV)等の影響で部分的に電離している領域のことを言います。この領域は電波の伝わり方に様々な影響を与えるだけでなく、北極や南極においてはオーロラの発光現象など、宇宙環境の変動に敏感に反応します。下記の観測機器で取得されたデータは世界資料センター(WDC)、宇宙天気予報、ITU(International Telecommunication Union)データバンク等で世界的に利用されています。

 

 下記に観測の概要と目的について説明します。

 

電離層垂直観測

 南極域における電離圏垂直観測データは、昭和基地でのみ長期継続中です。近年では、電離層高度の長期変動と地球温暖化との関連が指摘されるなど、電離層長期観測データの重要性が高まっています。昭和基地における電離層垂直観測システムは、送信電力10kWの10C型電離層観測システム1機とその観測電波を送受信する30mデルタアンテナ1基、FMCW電離層観測システム2機と40mデルタアンテナ2基から構成されています。

 

電離層垂直観測アンテナ(10C用)の写真

電離層垂直観測アンテナ(10C用)

 

電離層観測の点検作業 (10C型)の写真

電離層観測の点検作業 (10C型)

 

電離層垂直用アンテナ(FMCW用)の写真

電離層垂直用アンテナ(FMCW用)

 

電離層観測の点検作業 (FMCW型)の写真

電離層観測の点検作業 (FMCW型)

 

若い方々へ梅津さんからのメッセージ

梅津さんからのメッセージ画像

 

日本から遠く離れた南極で、私たちの生活や環境に密接した研究が行われています。
次回のお話もお楽しみに。
掲載は11月中旬を予定しております。

 

お知らせ

第59回松川地区文化祭イベント「ミニ南極展コーナー」からのお知らせ

 松川地区文化祭でイベント「ミニ南極展コーナー」が開催されます。
 南極の氷・岩、オーロラの写真の展示や南極の絵はがきプレゼントなどがあります。

 また、南極昭和基地の郵便局から消印が押印されたはがきがお手元に届きます。
 松川学習センター内に専用ポストが設置されていますので、はがきに切手(52円)を貼り投函してください。

 ご家族やお友達、自分にもお手紙を出してみましょう!

 ※切手(52円)は投函するはがきの枚数分、持参してください。

日時

10月15日(土曜日) 午前10時30分~午後3時30分
10月16日(日曜日) 午前9時30分~午後3時

場所

福島市松川学習センター 2階階段上り口

お問い合わせ

松川柔道スポーツ少年団 事務局(土屋)
電話 024-567-2387

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