第6回 南極便り

南極便り第7回は南極の野生動物についてのお話です。
南極はこれから夏を迎え、動物に出会える季節となります。
梅津さんが撮影したアザラシやペンギンのかわいらしい動画もぜひご覧ください。

南極の動物

ウェッデルアザラシの写真

 

 前回は「南極でのお仕事」について紹介しました。今回は昭和基地周辺で見られる動物を紹介します。

 

 南極大陸はインド洋、太平洋、大西洋の海に囲まれています。南極大陸の広さは日本の面積の約37倍もあります。また南極大陸のほとんどが氷に覆われていて、露岩と呼ばれる地面が顔を出している場所は大陸全体の面積のわずか2%で、広大な大陸の殆どが厚さ平均2,450mにも達する雪と氷に覆われた大陸です。このわずかな露岩地域に生きる生物は、厳しい環境のために種類も量もごくわずかです。一方、大陸を取り囲む南極域は、最低でも水温が−2℃あり、豊かな生命を育んでいます。大陸を囲む海では、たくさんの植物プランクトンが繁殖し、それを餌とする動物プランクトンも多く、これを食べる魚や鳥、海産哺乳類(クジラやシャチ、アザラシ)などによる食物連鎖を構成しています。

 

 南極で見られる代表的な動物は、アザラシ、ペンギン、カモメ、クジラの仲間です。
 その中で、昭和基地周辺でみられる生き物はウェッデルアザラシ、アデリーペンギン、ナンキョクオオトウゾクカモメ、ユキドリなどで、稀にコウテイペンギンも見られることがあります。これからの季節(10月~3月)は多くの動物が繁殖する時期なので、1年の中で一番動物に出会える季節となります。

 

アデリーペンギンの写真1

アデリーペンギン(1)

 

アデリーペンギンの写真2

アデリーペンギン(2)

 

アデリーペンギンの写真3

アデリーペンギン(3)

コウテイペンギンの写真1

コウテイペンギン(1)

 

コウテイペンギンの写真2

コウテイペンギン(2)

 

コウテイペンギンの写真3

コウテイペンギン(3)

アデリーペンギン

 それでは、はじめにアデリーペンギンについて紹介しましょう。

 

 ペンギンは、世界中に18種類生息し、おもに南半球に分布しています。昭和基地周辺で良く見られるのはタキシードをまとったジェントルマンにたとえられる、アデリーペンギンです。アデリーペンギンは南極大陸で繁殖する数少ない鳥類のひとつで、ペンギンでは18種類のうち、コウテイペンギンとアデリーペンギンのみに限られます。体長約70cmで、体重は3.7~5kg程度です。目のまわりの白いアイリングが特徴です。主食はオキアミ、魚類やイカ類などを食べます。深さ175mも潜ったという記録もありますが、通常は20mよりも浅い海面付近でエサをとることが多いです。10月に、生まれ育った繁殖地(露岩のある島や沿岸部)にもどってきます。

 

アデリーペンギンの写真1アデリーペンギンの写真2アデリーペンギンの写真3

繁殖地の写真1繁殖地の写真2

 

 繁殖地は岩石が露出しているところで、小石を集めて巣をつくります。そして11月頃に1~2個を産卵します。親鳥は2週間ほど絶食しながら卵を抱きます。オスとメスが交代して卵を抱き40日前後でふ化します。ヒナは3週間ほどで5~20羽ほどのちいさな保育所のような集団(クレイシ)を形成します。ヒナの成長は早く、ふ化後50日前後には巣立ちます(繁殖地をはなれる)。

 

卵を温めるアデリーペンギンの写真ふ化しようとしているアデリーペンギンのたまごの写真

アデリーペンギンのひなの写真ペンギンの足跡の写真

 

 繁殖の時期は10~2月末頃までの南極の短い夏の間で、きわめて早く子育てを終えます。そして3月には定着氷域の氷縁まで旅立っていきます。性成熟するのは遅く、5~8年もかかると言われています。

 

子育て中のアデリーペンギンの写真1子育て中のアデリーペンギンの写真2

子育て中のアデリーペンギンの写真3子育て中のアデリーペンギンの写真4

アデリーペンギンの写真1アデリーペンギンの写真2

 

 アデリーの名の由来について、この鳥を初めて南極で見たフランス人デュルビルが自分の妻の名前をその生息地(アデリーランド)につけたことに由来しています。

 1月には昭和基地に立ち寄ることもあります。

 

昭和基地とアデリーペンギンの写真1昭和基地とアデリーペンギンの写真2

アデリーペンギンの動画

「ペンギン」
動画ファイル:ペンギン(720×480)
撮影者:梅津正道 国立極地研究所提供

ウェッデルアザラシ

つづいてウェッデルアザラシを紹介します。

 

ウェッデルアザラシの写真1

 

ウェッデルアザラシの写真2ウェッデルアザラシの写真3

 

 南極大陸はその周囲を安定した厚い海氷(定着氷)で囲われます。ウェッデルアザラシは、その定着氷域を主な住みかとする、もっとも南に分布するアザラシです。体はまるまると太っています。体長は成体のオスで約2.9m、メスで約3.3m。体重は400~450kgです。主食は魚類、イカ・タコ等の頭足類、オキアミなどですが、さらに優れた潜水能力を活かし、海の深いところにいる(底生性)の無脊椎動物も食べます。9~11月には氷上や小島の岩礁で出産し、授乳期間は5~6週間です。ウェッデルアザラシは水深600~700mの潜水記録もあります。潜水時間は通常20分程度ですが、82分の記録もあると言われています。ウェッデルアザラシは冬でも時々、氷の穴(息継ぎ用の穴)から顔を出している様子を見られることもあります。

 

息継ぎ用の穴から顔を出しているウェッデルアザラシの写真ウェッデルアザラシの写真4

 

ウェッデルアザラシの動画

「あざらし」
動画ファイル:あざらし(640×480)
撮影者:梅津正道 国立極地研究所提供

ナンキョクオオトウゾクカモメ

 最後にナンキョクオオトウゾクカモメについて紹介します。

 

 ナンキョクオオトウゾクカモメは渡り鳥です。南極大陸の沿岸部で繁殖し、冬は赤道を越えて北半球の高緯度地方まで渡り、太平洋のアラスカ沖や大西洋のグリーンランド沖の海洋上ですごします。翼を広げると140cmほどにもなります。ペンギンなどの南極大陸で繁殖する海鳥類の陸の捕食者となっており、ペンギンの繁殖地では見晴らしの良い場所を陣取って、ペンギンの親鳥の隙きを狙い、卵やヒナを捕食します。冬の食物はよく知られていませんが、魚を捕食したり、海上に漂う鯨類や魚類などの死骸を食べていると言われています。繁殖は11月に始まり、地上のくぼみに2個の卵を産卵後1ヶ月ほど抱卵し、ヒナはふ化します。ペンギンが巣立つ時期に、旅立って行きます。

 

ナンキョクオオトウゾクカモメの写真1ナンキョクオオトウゾクカモメの写真2

ナンキョクオオトウゾクカモメの写真3ナンキョクオオトウゾクカモメの写真4


参考文献:極地の哺乳類・鳥類(人類文化社発行)
撮影者:梅津正道
国立極地研究所提供


 

氷に覆われた厳しい環境でも野生動物が生息しています。
私たち一人一人が日常生活において、環境への配慮や省エネ対策などひとつでもできることを始めることが、その動物たちの命を守ることにもつながるのではないでしょうか。
次回のお話もお楽しみに。
掲載は12月下旬を予定しております。

 

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