第4回 南極便り

南極便り第5回は厳冬期の寒さとブリザードのお話です。
空中にまいたお湯が一瞬に凍りつき花火のように見える「お湯花火」や極夜期の前後に太陽が地平線付近を移動していく「転がる太陽」の動画もぜひご覧下さい。

南極の厳冬期の寒さとブリザード

地吹雪の写真

 

 前回は「極夜とミッドウィンターの紹介」でした、今回は南極の厳冬期の寒さとブリザード(吹雪)について紹介します。

厳冬期

 7月17日、待ちに待った太陽が戻ってきました。5月31日から始まった太陽が昇らない極夜が終わりました。日本は8月から9月にかけて暑い夏ですが、南極昭和基地は地球の裏側(南半球)にあるので、日本(北半球)とは夏と冬が反対となり、今の昭和基地は寒い季節となります。
気温は-40℃以下になることもあります。

 7月末までで、今年(2016年)最も寒い日は、-34.0℃(7月31日)でした。

 

昭和基地の冬景色(1)

昭和基地の冬景色(1)

昭和基地の冬景色(2)

昭和基地の冬景色(2)

参考

  • 昭和基地における観測記録上の最低気温は-45.3℃(1982年9月4日)、最大瞬間風速は61.2 mです(1996年5月27日)。南極で最も寒い基地はロシアのボストーク基地で最低気温
    -89.2℃(1983年7月21日)が記録されています。日本国内での最低気温は北海道旭川で
    -41℃(1902年1月25日)が観測されています。ちなみに二酸化炭素は-78.5℃で凍ってドライアイスとなります。
  • 南極昭和基地の過去の気象データは気象庁のホームページで見ることができます。
    気象庁ホームページ「南極昭和基地の気象」(新ウィンドウで表示)(毎月中旬に更新)

ブリザード

 ブリザードとは、激しい吹雪のことを言います。ブリザードの特徴は風が強いばかりでなく、激しい降雪のため、1m先も見えなくなることもあり、時には最大瞬間風速が50m/s以上となることがあります。昭和基地では1年間に平均で約25回、50日程度はブリザードがあります。このようなブリザードが吹き荒れる時は隊員の安全・安心のために、越冬隊長は以下の発令基準に基づいて、外出の安全性を総合的に判断し、外出注意令、外出禁止令を発令します。外出注意令が発令されると、建物間を移動する際には通信室に連絡し2名以上で行動(各隊員は無線機を非常時に備え常に携帯している)、建物間にはライフロープが設置してあり、そのロープと体に結んだライフロープを繋いで移動しないといけません。また外出禁止令が発令されると建物間の移動は禁止となります。今年(2016年)は、2月以降から7月末までの外出注意令は39回(禁止令と重複あり)、外出禁止令は10回発令されました。

ブリザードの動画


「ブリザード」
動画ファイル:ブリザード (720 x 480)
撮影者:梅津正道 国立極地研究所提供

 

  • 外出注意令:視程1000m未満、風速15m/s以上
  • 外出禁止令:視程 100m未満、風速30m/s以上

 

 日本の南極地域観測隊では、ブリザードによる視程の状態や平均風速、継続時間によってA、B、Cの強度階級をつけています。

 

  • A級 視程100m未満、風速25m/s以上、継続時間6時間以上
  • B級 視程1000m未満、風速15m/s以上、継続時間12時間以上
  • C級 視程1000m未満、風速15m/s以上、継続時間6時間以上

 

 今年(2016年)は、2月から7月末までのブリザード 数はA級2回、B級8回、C級8回、半年間で計18回ありました。今年はブリザードの多い年であるのかもしれません。

体感温度

 体感温度とは、人が肌で感じる温度を数字に表したもので実際の気温とは違うものです。寒さは気温だけでなく、湿度、気圧、日照も関係しています。一般的に風速が1m/s増すごとに、体感温度は1℃低くなると言われています。

 

 例えば、気温が10℃以上で湿度が80%以下の場合、気温が同じだとすれば、湿度が高い方が暖かく、低い方が寒く感じます。湿度が低いと、体の表面から徐々に水分が奪われ気化熱を失うことで体が寒く感じるようになっているからです。その為、湿度が10%から15%ほど下がるごとに体感温度は1℃ずつ下がっていくと言われています。

 

 また気温が摂氏10℃以下の場合、逆に湿度が上がるほど体感温度は低くなり(寒く感じる)、湿度が下がるほど体感温度は高く感じる(暖かく感じる)ようです。

 

 以下の体感温度の関係を表したグラフを御覧ください。

 

下記のグラフはグレゴルチュクによるミスナールの式を改良した 「net effective temperature」計算式からグラフ化したものです(オリジナル)

 

体感温度と風速の関係(1)

体感温度と風速の関係(2)

地吹雪の写真

地吹雪の写真

 お湯花火と転がる太陽の動画


「お湯花火(-30℃)と転がる太陽」
動画ファイル:お湯花火(-30℃)と転がる太陽(720 x 480)
撮影者:梅津正道 国立極地研究所提供

基地内の生活

 隊員が生活する主な建物(母屋)は、外の気温が-40℃でも、建物内の室温は10~15℃程度に保ち、隊員達は快適に生活を送ることができます。昭和基地に建つ建物のほとんどは、鉄やコンクリートではなく、木材で断熱材を挟んだ断熱性の高い『木質パネル』を使った建物となっています。

 

隊員の個室の写真

隊員の個室の写真

 

ブリザードの動画から建物間の移動も命がけということが、より一層うかがえます。
隊員のみなさまの安全と観測の成功をお祈りいたします。
次回のお話もお楽しみに。
掲載は10月上旬を予定しております。

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